Kommonうでわ

ひと粒ひと粒が愛おしい、ビーズの世界。

ようこそセロー、さよならセロー。

「子どもができたかも」

 

彼女の表情がさほど嬉しそうでなかったのは、まだ結婚していなかったこと、うんと年下の彼氏との子どもだったこと、その彼氏は定職についていなかったからだった。

 

そんな曰く付きで我が家にセローがやってきた。

 

たったの3万円で譲ってもらったのだった。

 

2年で2万㎞ほどセローを乗り倒している間に、彼女はその彼と結婚し、3人で暮らせるアパートに引越し、ほんの数週間の産休を経て復職し、彼氏もなんとか定職に付き、子どもはよちよち歩き始めた。

 

「セロー、まだ乗ってる?」

 

あの頃より、2倍も3倍もたくましくなった彼女からの連絡だった。

 

結局、アスファルトの上でしか走らせなかったセローは、メーターこそ2万㎞ほど回ったけれども、見た目はさほど変わらず、彼女の元へと戻っていったのだった。