Kommonうでわ

ひと粒ひと粒が愛おしい、ビーズの世界。

リズムボックスに付いていけなくて

リズムボックスが仕事場にあった。

 

むかし、そういう仕事をしていた。

 

いま思い返すと、あれはローランドのリズムボックスだったかと思う。

 

waltzとかrockとかbossa novaとか。

 

sambaとかcha-chaとかboogie-woogieとかmamboとかrumbaとか。

 

そういうボタンがあって、スタートとストップスイッチだけが付いているシンプルなもの。

 

歌に自信があるお客さんはリズムボックスを使いたがるのだけど、たいていテンポが合わずに付いていけなくて。

 

鍵盤からアクロバティックに手を離し、

 

謎の5拍子とか7拍子を挟み込む。

 

それがわたしの仕事だった。

 

ドンチキツッタカ。

 

 

絶滅危惧種

雑木林や広大な造成地が広がるベッドタウンで育ったので、子どもの頃は昆虫採集の楽しみが尽きなかった。

 

図鑑でアタマに叩き込んだ昆虫の種類と名前。

 

どの虫も珍しいとは思えないほど自然があふれていた。

 

ある日、テレビで

 

「ゼツメツキグシュ、オオムラサキ

 

とニュースになっているの見て、初めて“絶滅危惧種”という言葉を覚えたし、実感が沸かなかった。

 

だって、オオムラサキはそこいらじゅうにいたんだもの。

 

数年のちにはオオムラサキを見かけることがなくなり、蝶が飛んでいる姿を見かけるだけでなんだかわくわく心が和むような、そんな珍しい光景になってしまったな。

 

迷う贅沢

「靴、買ってあげるよ」

 

誕生日を前に彼は言った。

 

一緒に選びに行ったお店で見つけた、お気に入りの靴。

 

だけど問題は、いくつか並んでいる靴の色が、どれもこれもとってもステキなことだった。

 

選びあぐねているわたしに彼は言った。

 

「両方買えばいいじゃない」

 

2足の靴を手に入れることは、喜びが2倍になることなのかな。

 

彼のふところを痛めてしまう、そう思うと嬉しさが半分になっちゃうのかな。

 

あれこれ迷う贅沢。

 

欲しいもの全部手に入れることより、あれこれ迷う時間が贅沢なんだって気付かせてくれたよね。

 

 

 

スティービーが消えた日

日本武道館からスティービー・ワンダーが消えた日

 

大好きだったスティービー・ワンダー

 

来日公演のチケットが運良く手に入ったので、わくわくしながら武道館へ。

 

武道館の中央に仕立てられたステージを、かなり高いところから見下ろす。

 

コンサートはクライマックスとなり、会場全体にグルーブが回りはじめた。

 

何度も何度も繰り返されるリフ、それに合わせて揺れるオーディエンス。

 

気がつくと、奏者が一人消え、二人消え。

 

最後にはスティービーまで消えてしまった。

 

あっけにとられる会場、そして強制的にコンサート終了をお知らせする照明の点灯。

 

目の前で演奏していたはずの音は、実はサンプリングのループの音だったんだ。

 

いろんな意味で記憶に残るコンサートだったな。

 

 

バイカーなのか、ライダーなのか

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オートバイに乗る人のことを

 

「ライダー」

 

と呼んだり、

 

「バイカー」

 

と呼んだりする。

 

ライダーとバイカーの違いってなんだろう?

 

「後戻りできないヤツがバイカーなのさ」

 

“バイカー” を自認する彼は、そう言った。

 

ロン毛もヒゲも、切ればいい。剃ればいい。

 

だけど、ピアスにタトゥは自分にコミットしないと出来ないでしょう、って。

 

だけどさ、身体に刻み込まなくても、結局、バイクは楽しい、

 

バイクは気持ちいい、のにね。

 

 

ロックな君はいなかった

バイト先にいた君は、社内で浮きまくってた。

 

まっ金金なロングヘアが許されていたのは、夢に向かって働きまくる君の姿を叩き上げの社長が認めていたからだった。

 

ある日、ライブがあるから見に来てよと誘ってくれた君。

 

先払いでチケットを買い、出番の時間に合わせてライブハウスに赴いたのだけど。

 

出演するはずのバンド名は入口のボードにはなかったし、

 

中で演奏していたバンドは、君が言ってた音楽ジャンルとはまるであさっての方向性だったんだよね。

 

君はそこにはいなかった。

 

強制的に買わされるワンドリンク500円のコーラを飲んで、そそくさと駅に向かった。

 

気まずい雰囲気のまま、バイト先で言葉を交わすこともなく、君はいつの間にかいなくなったんだ。