たてむすび、よこむすび
「こういうの、たてむすびって言うのよ」
わたしが小学生のとき、担任の先生は間違いを指摘した。
ちゃんと結べているのに、なんで間違いって言われるのかよくわからなかった。
わたしにとっての“ちゃんと”とは、紐がほどけないことだったが、先生は方向にも正しさがあると言う。
先生は根気強くちょうちょ結びを教えてくれたが、一向にたてむすびが直ることはなかった。
自分がパートタイムで左利きであることに気付いたのは、だいぶ経ってからのことだった。
正しいちょうちょ結びをするには、先生のお手本をあたまの中で反転させて再現する必要があった。
それがわかれば、よこむすびの正しいちょうちょ結びなんて簡単なのだった。
リズムボックスに付いていけなくて
リズムボックスが仕事場にあった。
むかし、そういう仕事をしていた。
いま思い返すと、あれはローランドのリズムボックスだったかと思う。
waltzとかrockとかbossa novaとか。
sambaとかcha-chaとかboogie-woogieとかmamboとかrumbaとか。
そういうボタンがあって、スタートとストップスイッチだけが付いているシンプルなもの。
歌に自信があるお客さんはリズムボックスを使いたがるのだけど、たいていテンポが合わずに付いていけなくて。
鍵盤からアクロバティックに手を離し、
謎の5拍子とか7拍子を挟み込む。
それがわたしの仕事だった。
ドンチキツッタカ。
スティービーが消えた日
日本武道館からスティービー・ワンダーが消えた日
大好きだったスティービー・ワンダー。
来日公演のチケットが運良く手に入ったので、わくわくしながら武道館へ。
武道館の中央に仕立てられたステージを、かなり高いところから見下ろす。
コンサートはクライマックスとなり、会場全体にグルーブが回りはじめた。
何度も何度も繰り返されるリフ、それに合わせて揺れるオーディエンス。
気がつくと、奏者が一人消え、二人消え。
最後にはスティービーまで消えてしまった。
あっけにとられる会場、そして強制的にコンサート終了をお知らせする照明の点灯。
目の前で演奏していたはずの音は、実はサンプリングのループの音だったんだ。
いろんな意味で記憶に残るコンサートだったな。